国際オオカミセンター
先日、オオカミセンターについて、少し触れたのですが、今回は、ミネソタ州、ELY(イーリー)という町にある国際オオカミセンターについてご紹介します。
このセンターは、自然の中のオオカミのあるべき立場と人が果たすべき役割についてきっちりと伝えていくことで将来生き残ることのできるオオカミの数を少しでも増やすことをミッションとしたNPO組織の拠点として1993年7月にスタートしました。
まず、この国際オオカミセンターがこのミネソタの田舎にある理由は、全米各地でほとんどのオオカミがいなくなった1900年代初めごろ、唯一オオカミが絶滅せずに生き残った場所がこのミネソタだったということ。ミネソタは世界で2番目に広いことで有名なスペリオール湖があります。
その湖からの湿った空気のために、夏は湿度が高く、冬は非常に寒い場所ですが、その湿潤な気候のために落葉樹も多く、この地域の紅葉はとても見事な事で知られています。
標高が高く、樹種も針葉樹しかないようなモンタナやワイオミングでは、その森を利用できる動物も数に限りがありますし、その標高の高い山に、群れの移動ルートも制限されてしまいます。ミネソタでは、一番標高の高い山はわずか700M。樹種の豊富さ、それを利用する動物の多さ、移動の容易さ(=森の懐が深さ)が、この地域のオオカミが絶滅しなかったことの大きな理由だったと考えられています。
オオカミ研究で世界的に有名なデービッド・ミッチ博士がこの場所を拠点に研究を行っていたことが、この場所が選ばれたひとつの理由でもあります。
しかしながら、このELYという町(下の地図の小さな赤い点の場所)は、ミネソタでもかなり北東部、もうカナダとの国境はすぐそこといった場所にあり、ミネアポリス空港から車で片道5時間もかかります。
つまり、ちょっとこのセンターにいってみようかな・・と気軽に思っていけるような場所にはない、集客をメインに考えた場合にはまったく不利な場所にあるのでした。
ところがこのオオカミセンター、1993年7月に開館して以降、昨年には100万人の来館者を迎えるという成功を収めています。
気軽に足を運ぶことのできないような田舎町まで、わざわざいってみようと思った人が100万人もいたということです。
ちなみに2016年には45000人近くの来館者を迎えています。
オオカミの役割についてきっちり伝えていくということをミッションに掲げているこのセンターが一番重きを置いているのは、オオカミについての教育事業です。
2016年の報告書によれば、センターの予算の81%を教育事業に費やしています。
ちなみにアメリカ国内には、NPO組織としてのお金の流れが妥当であるか、職員の給料が妥当かどうか等を判断する場所があるのですが、このNPOは最高ランク4つ星の評価をもらっています。
年間プログラム運営のプランニング責任者のクレスタさんに話を聞く機会をいただいたのですが、その話ではこのような孤立した田舎の立地を考えて
① インターネットを活用して、オオカミ研究者から直接話を聞いたり、オオカミの動画を配信したりするプログラム
② プログラムの実施は前もって希望を聞く仕組みを設けて、その希望に即したプログラムを用意する
③ 館内宿泊つきのプログラムを行う。オオカミは夜行性なので、反対に活動的なオオカミの実態を見てもらうことが可能となる
④ 田舎の離れた場所に来るからには、1日だけではなく数日を過ごす人がほとんどなので、宿泊プラス、2-3日のプログラムを用意する
⑤ ミネソタの小学校に対しては、学校にスタッフが出向いて、出張授業も行っている
等など、かつてこのようなプログラムを計画、実施していた自分としては、こういったことを聞くと、クレスタさんがかなり忙しい人であることが推察されました。
ちなみに、①のインターネット授業は、希望に応じた実施もされていて、実はベトナムから実施の希望があり、当初は時差の問題が気にはなったけれど、時間を調整し、実施することができたということでした。2016年には米国内に限らず世界各地1600人の学生に向けてオオカミに関する授業を行うことができたそうです。
つまり、日本からの要請があれば、日本でも、このインターネット授業は実施することができるのです。PCの映像とはいうものの、本当にアメリカのミネソタの館にいる、今生きて動いているオオカミを見ながら、専門家の話を聞くことができるなんて、かなりわくわくすることじゃないでしょうか?
日本の学校は、今、英語の授業にもっと注力をすべきという話になっているようですが、どうせならこんな英語の授業*理科の授業をやってみたらどうなのでしょう?
https://www.wolf.org/programs/educator-resources-wolf-link/video-conferencing/
当センターは田舎の立地にありながら、2016年時点で25か国、4700人もの人々がメンバーとして登録しており、フェイスブックでは7万6千人を超えるファンを得、オオカミセンターのウエッブサイト訪問者数も60万を超え、多くの情報を国内外へと上手に配信し続けています。
https://www.wolf.org/
https://www.facebook.com/InternationalWolfCenter
国際オオカミセンターを訪れたら、みなさんは、大きなガラス越しに、小さなころから人に慣れさせたオオカミが歩く姿を目にすることになるでしょう。
つまり、オオカミしかいない動物園といったところでしょうか。
本当の野生のオオカミとは、やはり違うオオカミの姿だと思います。
しかしながら、本当のオオカミの姿を目の前にしながら、オオカミの生態的な特徴等について学ぶのと、机の上で本だけを開いて学ぶのとでは理解の深度がちがいます。
センターが発信している『オオカミは人と同じ、この地球上に住む野生動物の一員です』というメッセージは、やはりその場所にオオカミがいるからこそ、心の中に響いてくるような気がするのです。
実際、オオカミセンターの門をくぐった人は、実はすべてがオオカミ大好き人間というわけではなかったと、プログラムを担当してきたクレスタさんは言います。
(正直、オオカミが好きでもないのに、どうしてこのオオカミセンターにやってくるのだろうというのはいまだにわからないと彼女は言いますが)
そして、自分たちがプログラムを実施し、オオカミの姿を見て、オオカミの生態等を学ぶうちに『オオカミに対しての意識が変わりました』といって帰る人に
何度かであってきた。そんな人がいるからこそ、このセンターの存在意義があると感じているというお話しでした。
日本にもこんなオオカミ情報を発信する場があれば、日本の人々のオオカミへの意識も変わってくるのではないでしょうか? Elyみたいな田舎町でいいのです。
ひょっとしたら、そのオオカミ情報発信の拠点があることで、その場所にやってくる人が増えるという相乗効果も期待できるかもしれません。
by tinbraun2
| 2018-12-08 06:34
| しぜん
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